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2019年4月9日のマーケット・コメント

米中貿易交渉は「消去法で交渉長期化」がメインシナリオ

 

米中貿易交渉が、当初の見込みよりもかなり長期化しており、いまだに合意に至っていません。これまでの経緯を振り返ると、昨年始められた米国による中国製品への制裁関税は、昨年7月に340億ドル、昨年8月に160億ドルそれぞれに対して25%、昨年9月には2,000億ドルに対して10%、その2,000億ドルに対しても当初は今年年初から25%に引き上げられる予定でした。昨年12月初めに行なわれた米中首脳会談で、25%への引き上げは3ヶ月延期され、その間(2月末まで)に貿易合意を目指すとされましたが、結局合意には至らず、現在では具体的な期限を設けず「米中合意まで」引き上げは見送るとされています。

 

この制裁関税は、トランプ政権が対中巨額貿易赤字を問題視して、その解消のために行なわれたという印象があるかもしれませんが、それは正しい理解ではありません。米国が中国に最も強く求めているのは、知的財産権保護体制の強化です。十数年前から、米国は中国によるハイテク技術盗用を問題視してきましたが、複数の中国ハイテク企業が世界市場で大きな存在感を示す規模になり、中国による技術盗用の阻止に予断を許さない状況となったのです。ファーウェイ製品排斥はその象徴です。とかくトランプ政権の政策に反対する民主党も、対中政策には反対を表明しておらず、対中政策は党の垣根を越えた米国の国策と言え、トランプ政権は単にそれを実行に移したに過ぎないのです。

 

米国は中国に、これまで知的財産権保護に問題があったことを認め、今後は国家を挙げて問題を是正することの合意を求めているはずです。しかし中国にとってその合意は、これまで中国企業は技術盗用を行なって企業価値成長に寄与した、ということを認めることになるため、合意という選択肢はないでしょう。

 

もう一つ米国が中国に強く求めていることが、合意後に中国が本当に公約を履行しているかを米国が監視・確認する期間を設けることです。米朝首脳会談も、この点が相容れず決裂しました。もしこれを認めると、中国にとっては米国による一方的な監視・確認ということになり、中国は米国と対等だという、これまでの中国政府の主張と矛盾が生じてしまいます。それは習政権批判に留まらず共産党一党政治体制への批判にも繋がりかねないため、この点でも合意という選択肢はないでしょう。

 

トランプ大統領も習主席も、両国の政治トップとして求心力を高めるために、貿易合意という政治成果は欲しいはずです。しかし米中ともに、これまで長きに渡って築いてきた国の事情を、政治成果のために曲げることは出来ないでしょう。交渉決裂はお互いにとって最悪の政治成果であるならば、消去法で交渉長期化しか落とし所はないと思われます。