香港「逃亡犯条例改正案」は事実上廃案へ-習主席のG20参加確率上昇か
本日午前中に、香港で大規模デモの原因になっていた「逃亡犯条例改正案」の審議が無期限で延期されることが、香港行政長官の報道官により明らかにされました。「次の立法会選挙が来年に迫る中で、改正案の成立には何ヶ月もかかることを考えると、改正案が立法会に戻される可能性はないだろう」とされ、改正案は事実上廃案となりました。政府側が強攻策を取る、との大方の予想に反し、政府側が民衆に譲歩する形での事態収拾となりました。
この背景には明らかに、今月末のG20で「香港大規模デモ」の問題を取り上げられたくない中国政府の思惑があるでしょう。中国政府にとって、米中貿易問題での「敵」は米国だけですが、香港問題では全参加国を敵に回す可能性が高く、国際会議で中国人道問題が議題になった場合、国際社会での中国の立場が著しく悪化することは確実で、中国政府としてはその事態は避け、香港の逃亡犯条例改正は時期を見て仕切りなおし、という決断に至ったと思われます。
このことで、習主席がG20に参加するための大きな障害が一つなくなりました。また、米中貿易問題に関しても、トランプ大統領は「会議に来なければ3,000億ドルに関税を課す」と言っており、言葉を変えれば「会議に来さえすれば、顔を立てて関税発動には猶予を与える」とも取れます。状況を総合的に判断すると、前回コメントでご説明した
「3.習主席は、予定通りG20に出席し米中首脳会談に臨むが、合意に向けた交渉の継続の意志を確認するにとどめ、具体的内容は引き続き閣僚級会合で詰め、合意が見えた段階で訪米し、もう一度米中首脳会談を持つことを約束する。この場合は、トランプ政権が交渉の期限を求めると思われ、期限までは関税発動は猶予されるが、中国が譲歩できない状況は変わらず、単なる時間稼ぎに終わり、期限到来で関税発動。」
というシナリオの確率が高まったと考えられます。
つまり、市場にとってG20そのものがネガティブ・サプライズになる確率は低下し、新たに設定されるであろう交渉期限まで貿易問題に対する反応は持ち越される、ということです。もっとも、このシナリオは現在の市場が織り込んでいるメイン・シナリオだと思われ、市場の好材料とはならないでしょう。もし習主席G20欠席となれば、大きなネガティブ・サプライズになるでしょう。
米中貿易問題の結論先送りでも、7月後半から8月に世界的に株式市場が大幅下落するという予想に変化はありません。主要経済指標に改善が見られず景況感悪化が継続する中、7月半ばから発表され始める4-6月期企業業績と今後の見通しは、現在の市場が織り込んでいるものよりも弱い内容になると考えられるからです。また米中貿易問題も、単なる結論の先送りに過ぎず、根本解決の可能性は極めて低下したことも、市場は理解してくるでしょう。6月中には日本株のカラ売り体制を整えておくべき、との考え方に変更ありません。
細かい話ではありますが、6月19日のFOMCで過度な早期利下げ期待が後退した場合、その初期反応は米国金利上昇、米国株下落、米ドル上昇、ドル円上昇、日本株上昇となる可能性は否定できないため、日本株のカラ売りポジションはFOMCの前と後に2回に分けることは考慮に値するでしょう。いずれにせよ、日経平均が5月20日の戻り高値21,430円や75日線(現在21,441円)を上抜いてくるイメージは持てませんが。