FRBは「7月31日に0.50%の利下げ」の可能性を排除-行き過ぎた市場期待の修正を意図か
昨日米国で、複数のFRB高官からの発言がありました。まずパウエル議長ですが、講演で「景気下ぶれリスクは高まっており、弱さが見えれば早めの対応がベターだ。多くのFOMC参加者は、更に幾分か緩和的な政策の論拠が強まったと判断している。」と7月31日FOMCでの予防的利下げ決定の可能性を示唆した一方で、「短期のデータや市場センチメントの振れに過剰に反応すべきではない。」と一気に0.50%の利下げを行なうことには消極的であることを示唆しました。
ホワイトハウスからFRB理事就任を打診されたというブラード・セントルイス連銀総裁は「保険の意味で利下げをするにはいい時期だが、0.50%の利下げは行き過ぎだ。」と、明確に7月31日FOMCで0.25%の利下げをすべき、という考えを明確に打ち出しました。デーリー・サンフランシスコ連銀総裁は「経済はかなりの逆風に直面しており、インフレを目標水準に押し上げることが出来るように景気拡大を維持させたい。」と、7月31日とは限りませんが、比較的早期に予防的利下げを行なう必要性を示唆しました。
一方で、カプラン・ダラス連銀総裁は「現時点で追加的な金融刺激は経済の過剰と不均衡の増大に繋がり、最終的には制御が困難となり痛みを伴う可能性がある。」と早期(7月31日)の利下げには慎重である立場を明らかにしました。昨日の発言ではないですが、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁は、ブラード総裁と同様の早期利下げを支持し、ブレイナードFRB理事やクラリダFRB副議長は、近い将来の利下げを展望しながらも今すぐではない、とカプラン総裁に近い考えを示しています。
以上をまとまると、まず「7月31日FOMCで0.50%幅での利下げの可能性はない」ということが浮かび上がります。さらに「7月31日か9月18日のFOMCで0.25%の予防的利下げが決定される可能性が高い」という示唆も感じます。利下げが7月か9月かは、おそらくG20での米中首脳会談で3,000億ドルの中国製品に対する追加関税が発動されるかどうか、が決め手となると思われます。ISM指数や雇用統計などの経済指標が決め手ではないでしょう。
私のメイン・シナリオは、米中首脳会談は予定通り行なわれ、具体的な合意には至らないが今後も協議継続の意思を確認、トランプ政権は3,000億ドルに対する関税発動を猶予、FRBは7月31日FOMCで利下げは決定しないが早期の予防的利下げの用意を表明、です。その場合、市場が織り込む年内の利下げ回数は2回程度に低下し、米国10年国債利回りは現在の2.00%から2.25%程度まで上昇、ドル円は110円手前程度まで上昇と予想します。7月31日の利下げに踏み切るとすれば、3,000億ドルの関税発動の場合のほかに、業績懸念などから7月に米国株が大幅下落した場合でしょう。ただその場合でも、継続的に利下げをすることを示唆せず、利下げはあくまでも「予防的」であることを強調してくると思われ、現状よりも更に多くの利下げを市場が織り込むことはなく、米国10年国債利回りは2.00%を明確に下回っていく可能性は低いと思います。米国金利の低下による、さらなる円高ドル安進行は考えにくいということです。
追記:表題とは関係ないですが、昨日米国半導体大手のマイクロンがファーウェイ向けの出荷を一部再開したと発表しました。またニューヨーク・タイムズ紙は、「インテルなどの米国企業が米国外で生産した製品を輸出する方法で、ファーウェイトの取引禁止措置を迂回している」と報道しました。トランプ大統領にとっては「米国の国益のためのファーウェイトの取引禁止措置を、米国企業が骨抜きにしている」という事態であり、看過することはできないでしょう。これを受けて本日の日本株市場でも半導体関連銘柄が上昇していますが、近い将来しっぺ返しがくる可能性は高いと思います。