米国の利下げ織り込みは行き過ぎ-カラ売りの買い戻しが要因か
米国長短金利が低下を続けています。米国10年国債利回りは、4月末には2.50%でしたが、米中貿易戦争激化、景況感悪化による原油価格大幅下落、メキシコに対する関税発動、およびそれらによる米国株下落により、昨日時点では2.07%まで低下しています。1ヶ月で0.4%以上もの金利低下は、経済危機懸念が高まり、継続的な利下げが予想される状況以外では異例で、動きが過度な印象で違和感があります。
またFFレート先物市場では12月末限りの先物が1.78%で、ほぼ年内2回の利下げが織り込まれた水準にあります。バランスシート縮小の終了は、既に9月で終了と発表されていることから、「年内2回の利下げ」は「バランスシート縮小(金融引き締め要因)をしながら、9月までに利下げ(金融緩和要因)を1回行ない、10-12月(通常なら12月)にもう1回利下げ」あるいは「9月のバランスシート縮小停止後、10-12月に利下げを2回」のいずれかということになりますが、どちらにしても米国経済の状態は、そこまで悲観的な状態だとは思えず、こちらも行き過ぎだという違和感があります。
この違和感を覚える行き過ぎの動きの背景は、おそらくポジション調整だと思われます。CFTC(全米先物協会、いわゆるシカゴ筋ポジション)は、ドル円だけでなく様々な先物のポジション状況を週次(毎週火曜日更新)で発表しています。米国10年国債先物のポジションを見ると、利回りがピークをつけた昨年10月までショートが積み上がり続け、ネット・ショートは75万枚に達しました。その後利回り低下とともにショートは減少に転じ、利回りが2.7%前後でも見合っていた今年1月後半に先物ショートは10万枚台で減少は止まり、利回りが2.6%を下回った今年3月から先物ショートは再び積み上がり始め、5月21日には42万枚になりました。5月28日には38万枚に減少と、今年3月以降の利回り低下局面(特に4月半ば以降の利回り急低下局面)で始めて減少しました。
非商業ベースのポジションにかかわる投資家は、基本的にヘッジファンドなどの短期投資家であり、短期投資家は通常順張り的な投資行動を取ります。添付のポジションと利回りの推移をご覧いただければ、それが確認できます。しかし、今年3月以降は珍しく、債券上昇(金利低下継続)相場に、逆張りで売り向かったのです。金利低下は続いたことから、その間は「含み損が増加する中でポジションを増やす」という行動を取り、利回りが2.4%を割り込んだところで損切りの買い戻しを始めた、という状況です。
以前から折に触れご説明していますが、リスクを解消する行為には、価格水準を考えることなく時間をかけずに行なうものです。今回も評価損をたっぷり抱えた債券先物の損切りの買い戻し、というリスク解消行為が、金利水準を予想以上の速度で予想以上の水準に低下させた、と考えられます。5月21日の利回りは2.43%、5月28日の利回りは2.27%で、昨日時点で2.07%と低下が更に加速したことを考えると、過去1週間で相当の買い戻しが入ったと思われます。もちろん昨日で買い戻しは一巡とは言い切れませんが、買い戻し一巡は近いとは言えるでしょう。
少しわかりにくい、長い説明になってしまいましたが、結論としては、現在の米国10年国債利回りの低下は行き過ぎで、買い戻し一巡すれば2.25%程度には戻ると思われます。そうすればドル円は110円程度までは戻ると思われ、現状の107円台はまさに絶好の買い場と言えるでしょう。