強い雇用統計を受けて利下げ織り込みの修正は進むか
先週末に発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数変化が事前予想の16万人増を上回る22.4万人増となりました。前回の7.5万人増は7.2万人増に修正されましたが、前回は特殊要因による一時的な落ち込みで、米国労働市場の基調的な強さに変化はない、という見方が広がり、米国10年国債利回りは1.95%(BEI率1.66%、物価連動債利回り0.29%)から2.03%(BEI率1.70%、物価連動債利回り0.33%)に上昇しました。また、年末限りのFFレート先物は、1.725%から1.820%に上昇し、市場の利下げ織り込みはやや後退しました。(年内に織り込む利下げ幅は0.685%から0.590%に縮小)
前回のコメントで、
「もし予想の16万人増という予想を上回る数字となった場合は、7月31日FOMCでの利下げ幅0.50%の可能性が完全に消え、利下げ幅は0.25%ということを市場は織り込むでしょう。ドル円は直近高値の108.80円(6月11日)をトライし、上抜けして109円台回復となる可能性もあるでしょう。」
とご説明しましたが、ドル円は一時108.64円まで上昇したものの、108.80円は抜けずに108円台半ばでの推移となっています。5月30日にトランプ大統領がメキシコへの関税発動を表明し、金利低下&ドル円下落が加速する直前の米国10年国債利回りが2.21%、ドル円が109.73円でしたので、ドル円が108.80円を上抜いて109円台回復するには、2.10%台回復が必要かと思われます。
また米国株については前回のコメントで、
「強い数字であれば金利上昇を受けて下落」
とご説明しました。実際は、一時1%に迫るまで下落しましたが、そこから戻り、結局0.2%に満たない小幅下落で引けました。米国株は昨年10-12月の下落を1-4月に全値戻し、5月の下落を6月に全値戻ししており、「降りたら負け」が学習効果として強く働いている印象です。
雇用統計を受けても、米国の債券(金利)市場では年内0.50%を越える利下げが織り込まれ、米国景気の減速が織り込まれている一方で、米国株は最高値圏にあり米国景気に対する警戒感はない状態です。整合性が取れておらず、いずれ債券が下落(金利が上昇)するか、株が下落するかで整合性を取ってくると思われますが、米国経済や米国企業業績が相対的にもっとも堅調な状況を踏まえると、メインシナリオは米国株下落ではなく債券下落(金利上昇)と考えざるを得ません。
ただ、前回のコメントでご説明したとおり、弱い経済指標などを受けて「債券上昇(金利低下)&米国株下落」となった場合、「緩和的金融政策を好感して米国株上昇」という今年年初来、米国株の上昇の原動力となってきた相関が崩れた、ということになり、今後は「景気悪化&業績見通し悪化を嫌気して米国株下落」という相関に変化し、本格的な調整(下落)相場の始まりとなる可能性があることには留意が必要です。これをリスクシナリオとして意識し、その現象が起きた場合にはシナリオの切り替えが必要です。
日本株ですが、企業業績の景気敏感性が高いため、米国株とは逆に企業業績見通しが相対的に最も懸念される株式市場の一つです。それを反映して、外人投資家は世界景気減速懸念が始まった2018年1月以来、2018年4月、7月、2019年4月を除き、今年6月までの18ヶ月中15ヶ月で売り越しが続いており、戻りの上値が重い展開となっています。今月終わりから始まる4-6月期企業業績発表で、日本企業の業績先行き懸念は一層高まることが予想され、8月は安値模索の展開となる可能性が高いと思われます。