香港情勢とイギリス情勢の今後予想される行く末
昨日、香港とイギリスで、それぞれ市場心理を好転させる出来事がありました。香港では、大規模デモの発端となっていた「逃亡犯条例改正案」が、香港政府により正式に撤回されました。イギリスでは、EU離脱延期法案が下院で可決され、解散総選挙案は否決され、ジョンソン首相が主張する「10月31日の期限までのEU離脱断行」が怪しくなってきました。それらを受けて欧米株は上昇し、日本株も大幅上昇となっています。日本時間の午前中に、米中貿易協議が10月に開催される見通しと伝えられ、日本株の上昇は加速しました。
ここで、香港情勢とイギリス情勢の今後予想される行く末を考えます。まず香港情勢ですが、中国政府にとって重要な日は、なんといっても10月1日の建国70周年記念式典です。また、9月11、12日には香港で一帯一路サミットが開催されます。それらの日までになんとかデモを鎮静化させたいと、8月終わりの北載河会議(中国の歴代重鎮の集まり)で改正案撤回を決めたと思われます。しかし今のところ香港でのデモは鎮静化を見せていません。香港デモでは以下の5つを要求しています。
1.逃亡犯条例完成案の完全撤回
2.警察と政府の、市民活動を「暴動」とする見解の撤回
3.デモ参加者の逮捕、起訴の中止
4.警察の暴力的制圧の責任追及と外部調査実施
5.現在の香港行政長官の辞任と民主的選挙の実現
今回上記のうち1.だけが実現したわけですが、反対運動が始まってからすでに3ヶ月経過しており、その間に香港市民は「条例改正案が撤回されても、ほとぼりが冷めたら形を変えて同様の試みを中国政府は行なってくる」「完全な1国2制度を確立し、自治権を持たなければ将来が安全ではない」と考える様になっているはずであり、これですんなりデモが鎮静化するとは思えません。しかし残る2.-5.の要求に中国政府が応じるとは思えず、香港デモは長期化するでしょう。中国政府の武力による弾圧は、中国政府に最悪の事態を招きますので、その可能性も無いでしょう。
香港情勢よりは重要度が低いイギリス情勢ですが、ジョンソン首相はすでに来週から1ヶ月間議会を休会することを決めており、まずは今週中に上院でEU離脱法案が可決されることを阻止してくるでしょう。いわゆる「審議の時間稼ぎ」です。その後、10月の休会明けには再び解散総選挙を試みると思われます。
つまり、今のところは市場は歓迎していますが、どちらも根本的解決からは程遠く、好転した市場心理は時間の問題で元に戻ると思われます。また米中貿易協議も、当初は9月に開催されるはずでしたが、9月の開催は無理なので何とか10月開催を目指す、ということで、合意に近づいたという意味合いは全くありません。それどころか10月開催が決定したわけでもないのです。
本日の日本株は明らかに先物の買い戻し主導での上昇です。これにより「先物買い&現物売り」という裁定ポジションの解消が進んだと思われます。(9月2日付コメント参照)先物を買い戻した主体はヘッジファンドとCTA(トレンド追従型の自動売買)だと思われますが、それらの買い戻しが一巡すれば、新規の買いが入る環境ではないと考えられるため、買い需要は無くなり、さらに裁定売り残が減少すれば日本株は以前のように大きな値幅で下落しやすい状況に戻ると考えられます。
日経平均は重要なフシメである21,000円を越えてきましたので、買い戻し一巡が確認されるまでは、決め付けたりむきになって売り上がったりすることは危険ですが、基本観としては「下落トレンドの途中のアヤ戻し」です。