ついにコロナ被害に対して大きく反応を始めた株式市場-想定される経済的被害を整理
昨日、米国株は3%を超える大幅下落となりました。新型コロナウィルス感染が広がるイタリアや地理的に近いドイツ、フランスなど大陸欧州株は4%内外の下落となりました。一方、資金逃避の動きにより債券は大幅上昇(金利大幅低下)となり、米国10年国債利回りは1.37%まで低下し、2016年7月につけた史上最低の1.36%に迫っています。これは明らかに、今回の新型コロナウィリス感染拡大の経済的被害を、市場がやっと織り込み始めた、ということが背景になります。
新型コロナウィルスが、どのくらいの規模まで感染が拡大し、いつ頃から感染が収束するのかは、世界的感染が拡大中の現在では、経済的被害を定量化(金額化)することは誰にもできません。ただし甚大な被害が発生することは確実であり、今回はどのような領域で被害発生が想定されるかを整理します。
1.個人消費
先行きが不透明になり、支出を抑えようとする場合に、真っ先に行なわれることが「耐久消費財の買い替えを見送ること」です。自動車や家電製品など、買い替えを考えていたが買い替えをやめ現在のものを使い続ける、という行動です。高額なものほど、この行動が顕著になると想定され、自動車、大型家電製品、スマホなどで大きな影響を受けると想定されます。実際に2月前半の中国での自動車販売台数は、前年同月比92%減となっています。
2.設備投資
支出を抑える時に、個人が真っ先に行なうのが耐久消費財の買い替えの見送りであるのと同様、企業の場合は「設備更新の見送り」です。設備を新しいものに買い替えようと考えていたが、現在のものを使い続けることにする、という行動です。広範囲にわたって被害が想定されますが、特にFA関連などいわゆる省人化投資関連の被害が大きくなりそうです。
3.娯楽
不要であり節約対象にされやすいという理由だけでなく、感染被害を避けるために、できるだけ人が集まるところに行くことを避ける行動が、被害を大きくするでしょう。すでに訪日観光客数や観光地の人出などに大きな影響が出ていますが、各種イベントも中止になっているものが多く出てきており、被害は娯楽分野に留まらなくなってきています。証券業界でも、各種コンファレンスなどが軒並み中止になっています。
4.サプライチェーン問題
製品の製造過程で使用する部品や部材が中国からの輸入で調達しており、その調達ができなくなることで全体の生産プロセスに滞りが発生し、製品が生産できなくなる、という問題です。おそらくこのサプライチェーン問題による被害が、上記3つの被害よりも大規模になる可能性が高いですが、まだ顕在化している事例は限られています。企業は通常2ヶ月程度の部品・部材在庫を持っているので、まだ在庫があるため問題が顕在化せずにすんでいるのです。今回、新型コロナウィルス感染拡大が問題になり、中国での経済活動が著しく低下したのは2月からでした。なので、4月になっても現在の状況が続いているとすれば、各企業は手持ち在庫を使い果たし、一気に被害の顕在化が始まると想定されます。
10-12月期業績発表、その説明会が行なわれた2月半ばまでの時期には、各企業もこのサプライチェーン問題が、どこにどの程度存在するのか把握できていなかったでしょう。しかし1-3月期業績発表とその説明会が行なわれる、5月半ばまでにはすでに問題が顕在化し、各企業は問題の状況を把握していると思われます。つまり、どんなに遅くとも4月終わりから5月半ばには、被害の定量化が行なわれる、ということです。その時期までに感染拡大が収束し、経済活動が正常化していれば、市場は将来の回復を織り込むでしょう。しかし、もしその時期になっても感染拡大が収束していなければ、多くの企業は2020年度の業績見通しの発表を見送り、大きな不透明感が市場に台頭するでしょう。また、もしその状況であれば、IOCは東京オリンピック開催見送りの決断を迫られているでしょう。