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2020年3月4日のマーケット・コメント(2)

EPS×PERで考える日経平均の下値目処

 

以下は、ある経済誌に依頼されて寄稿した原稿案です。

 

2月半ば過ぎから世界的に株式市場の下落が顕著になっている。日本株も例外ではない。大幅下落の背景は新型コロナウィルス感染拡大とされているが、日本株の場合、それは背景というよりもきっかけであり、ウィルス問題前にすでに大幅下落の要素があった。

 

過去半年ほどの日本株の動きを振り返ると、昨年8月は業績懸念や米中貿易戦争激化懸念で、日経平均株価は21,000円以下での推移だった。その後9月から上昇基調となり、12月には24,000円台に達した。上昇の背景は「米中貿易問題の緊張緩和や中国政府による景気対策などにより中国経済は底入れし、日本企業の業績は2020年度にV字回復する」ということだった。

 

しかし今年になって発表された10-12月期業績は総じて低迷が続き、来期業績の大幅回復を示唆する内容ではなかったうえ、10-12月期GDPは年率6.3%減と予想外の弱い数字だった。GDPの内訳を見ると、予想に比べて最も弱かったのが設備投資で、消費増税の影響ではなく企業活動の低迷が主要因だった。V字回復という、上昇の背景だった織り込みが実現する可能性が低下したにもかかわらず、上昇を続ける米国株に支えられ日本株は高止まりを続けた。つまり2月に大幅下落する前の日本株は、根拠なき楽観に支えられた脆い状況だった。そこにウィルス問題により米国株が下落したことで、日本株も大幅下落となった。

 

ウィルス問題による経済への悪影響は、個人消費や観光・娯楽産業の落ち込みも挙げられるが、とりわけ懸念されるのが「サプライチェーン問題」だ。製造過程で使用する中国からの部品の供給が滞ることにより製造全体が滞る、という事態だが、中国との直接取引がなくても取引先が中国との取引があれば、間接的に同様の事態となる。広範囲の企業が影響を受けると思われ、業績への影響は計り知れない。

 

日本株の安値目処だが、「株価÷1株あたり利益」で算出されるPER(株価収益倍率)を使って以下の様に試算される。過去10年ほどの日本株の平均的PER水準は、平常時が14-16倍、減益局面では12-14倍だった。現在市場で予想されている東証1部の2019年度の1株あたり利益は数%の減益、2020年度は10%程度の増益だ。2020年度の市場予想を使ってPER14倍を計算すると、日経平均で22,300円相当となる。PER12倍だと19,100円程度だ。

 

ただ問題は、現在の市場予想通り2020年度に10%増益となるとは思えないことだ。ウィルス問題自体が、どの程度拡大しどの時期に収束するか不明だが、感染問題が収束しても経済活動はすぐに戻るとは思えず。業績への影響は長引く可能性が高い。仮に2020年度が10%減益になるとすると、PER14倍は18,600円程度、PER12倍は15,900円程度と算出される。2016年のトランプ大統領当選当時の株価水準だ。

 

4月から5月にかけて、3月決算期企業は前年度実績と今年度業績見通しを発表する。今年の場合、企業が楽観的な業績予想を発表するとは思えず、根拠なき増益期待は剥落するだろう。多くの企業がその時期には業績予想を出さないこともありえる。その場合は3ヵ月後の4-6月期四半期業績発表で、同様の事態が想定される。