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2020年3月5日のマーケット・コメント

「日経平均のPBR1倍」の問題点-そもそも日本株市場でPBR1倍は下値目処なのか?

 

本日の日経新聞の「スクランブル」に「(日経平均の)PBR1倍は岩盤か」という記事が掲載されています。同紙面に掲載されている日経平均のPBRは1.01倍となっており、逆算で求められる日経平均の1株あたり純資産(BPS)は20,891円となり、強い下値支持として機能するとされています。この計算は誰でも簡単にできるため、各証券会社のレポートなどでも下値目処の論拠として散見されます。

 

しかし、以前も指摘したように、この計算には大きな問題があります。「日経平均株価」は、採用225銘柄の株価を額面調整した後、225銘柄の株価を足し合わせて除数で割る、という計算方法で算出されています。その結果、額面調整後の株価の絶対値が大きい銘柄の指数ウェイトが大きくなります。ウェイト上位は、ファーストリテイリング(9983)9.2%、ソフトバンク(9984)5.2%、東京エレクトロン(8035)3.9%、KDDI(9433)3.3%、ファナック(6954)3.0%、となっています。

 

一方、日経新聞に掲載されている「日経平均株価のPERとPBR」はそれぞれ、

「PER」=「日経平均採用225銘柄の時価総額合計」÷「225銘柄の当期利益合計」

「PBR」=「日経平均採用225銘柄の時価総額合計」÷「225銘柄の自己資本額合計」

で算出されています。(以前、日経新聞社に確認済み)

 

つまり「日経平均株価」はNYダウと同様に「単純平均」型の指数であるのに対して、日経新聞掲載の「日経平均のPERとPBR」はS&P500やTOPIXと同様の「時価総額加重」型の計算を行なっているのです。本日の「スクランブル」を書いた記者も、この問題を認識していると思われ、記事中にわざわざ「加重平均で」と書いています。上記計算方法で求められるPERやPBRには何の意味もないとは言いませんが、それを「日経平均株価のPERとPBR」とするのは誤りです。なお「日経平均株価」と同じ計算方法で求められる「日経平均株価のEPS」は13,434円、「日経平均株価の今期予想EPS」は1,259円です。これらに基づくと昨日時点では、PER16.8倍、PBR1.57倍となります。

 

TOPIXにはこのような問題はなく、日経新聞掲載のTOPIXのPBRから逆算されるTOPIXのBPSは1,391です。この水準がTOPIXの下値目処の一つと言えますが、「岩盤」と言えるかははなはだ疑問です。TOPIXの時価総額上位銘柄を見ると、PBRが1倍を大きく割り込んでいる銘柄が散見されます。三菱UFJ(8306)0.4倍、三井住友FG(8316)0.4倍、本田技研(7267)0.6倍、三菱商事(8058)0.7倍、三井物産(8031)0.7倍、などです。日産自動車(7201)やJFE(5411)に至っては0.3倍です。これら銘柄に赤字企業は一つもありません。

 

これを「赤字企業でなければ、本来株価はBPSを割り込むべきでなく、PBR1倍を大きく割れている水準のそれらの現在の株価は不合理なほど超割安であり、将来大幅な株価上昇が期待できる」と考える投資家は、ほとんど存在しないでしょう。市場価格が間違っていると考えないのであれば、素直に導き出される結論は「日本株市場では、PBRという指標は機能していない」ということになるでしょう。