今後想定される平均的ヘッジファンド・マネージャーの投資行動
3月の世界的株式市場急落の中、多くのヘッジファンドも苦戦を強いられています。その平均的状況を、ヘッジファンドのパフォーマンスなどを集計しているユーリカヘッジ社の地域別ヘッジファンド・インデックスで見てみます。戦略は株式ロング・ショートです。北米では3月-8.33%、1-3月-2.39%、欧州では3月-6.37%、1-3月-9.06%、アジアでは3月-7.50%、1-3月-9.78%、日本では3月-4.72%、1-3月-10.32%となっています。地域間で多少の違いはありますが、ほぼ同様の結果です。なお、通常の毎月の動きが±2%を超えることは少なく、±3%を超えることはめったにない、というくらいの振れです。したがって3月単月で5%以上、1-3月で10%以上のマイナスという状況は、一言で言うと「おおやられ」です。
損失の原因は明らかに株価の大幅下落ですから、平均的なヘッジファンドはかなりのネット・ロング(買いポジションが売りポジションよりも多い=株価上昇に賭けたポジション)だったと言えます。1-3月のS&P500は20.00%の下落、TOPIXは18.49%の下落でしたから、平均的ヘッジファンドのネット・エクスポージャーは+50%程度だったと思われ、これは他の情報源からのデータとも整合します。
株価の急落が続いた3月に取ったであろう投資行動は、下落の途中でネット・ロングを大きく減らしたことだと思われます。説明責任が重要な中長期投資家と違い、ヘッジファンドにとって最も重要なことは「大きなマイナスを出さないこと」です。そのため損失がある限度を超えると、リスク管理上ポジションの縮小を強いられる内部ルールを採用しています。S&P500で見ると、3月4日の3,130.12を起点に下落が始まり、3月23日に2191.86の安値をつけ、月末は2584.59まで戻って終えています。平均的ヘッジファンドは、おそらく下落の途中の2500-2700あたりの水準で買いポジションの大幅縮小を行い、マイナス収益をロックしたと思われます。「100の買い+50の売り」を「50の買い+50の売り」に変更した、ということです。
3月半ばに「50の買い+50の売り」に変更したということは、そこから安値をつけるまでの損失拡大は回避できたが、安値からの戻りも収益化できていない、ということです。4月に更に戻っていますが、その戻りも収益化できていない、ということになります。しかし1-3月に生じた10%の損失を年内にはプラスに持っていかなければなりません。できればなるべく早い段階で明確な収益改善を見せなければなりません。ヘッジファンドの顧客は解約の動きも速いからです。
つまり彼らは、大きなリスクを取って大きなリターンを狙わなければならない状況にあります。つまり、個別銘柄のペアトレードなどの低リスク低リターン戦略ではなく、「買い」か「売り」に大きく賭ける必要があります。10%の損を50%のネット・エクスポージャーで取り返すためには市場が20%動く必要があります。S&P500は昨日で2,799.55だったので、20%の上昇は3,359.46、20%の下落は2,239.64です。2月19日につけた史上最高値が3,393.52ですから、20%上昇の3,359.46は史上最高値に迫る水準になります。一方、3月23日につけた直近安値は2,191.86なので、2,239.64はその直近安値に迫る水準になります。
ウィルス感染拡大がどこまで続くのかすらまだ見通せない現在の状況を考えると、ほとんどのマネージャーは「買い」ではなく「売り」に賭けると思われます。その一つの証拠が、日本時間今朝のトランプ大統領の「経済再開ガイドライン」の発表を受けて、時間外の米国株先物が大幅上昇していることです。ガイドライン自体の内容に新たな好材料はないにもかかわらず大幅上昇しているということは、この動きの背景は「売り」に賭けたマネージャーがあわてて買い戻している、ということとしか考えられません。
今後何らかのきっかけで株価下落が始まり、ヘッジファンドの売り増しが加速して下落が続き、ある程度下がったところで一斉に買い戻しが入り急反発、また売り増しが加速して下落、という展開が予想されます。日経平均でいえば、16,500円程度まで下落、17,5000円程度まで反発、15,000円程度まで下落、その後は15,000-17,000円で乱高下、という動きがイメージされます。