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2020年4月23日のマーケット・コメント

多くの人は大きな変化を受け入れたがらない-2021年3月期のアナリスト業績予想は楽観的になる

 

昨日、米国株が反発となり、日本株はレンジ相場継続、日経平均は19,000円台での上下動継続、となりました。再び19,000円割れ水準まで下落するまでは、この動きに合わせて動くしかないでしょう。ただしこれまでの繰り返しになりますが、最終的には上ではなく下に抜けます。

 

ところで、今日から日本でも業績発表は本格的に始まりました。主力企業では、今日はキャノン(7751)とオムロン(6645)が発表を行ないましたが、12月決算のキャノンは今期予想を取り下げ、3月決算のオムロンは今期予想を出しませんでした。会社が予想を出さないからといって、証券会社のアナリストは予想を出さなくてはなりません。営業利益のコンセンサス予想を見ると、キャノンの今期は14%減益、オムロンの今期は5%増益となっています。今後もこのような「会社は今期予想を出さず、コンセンサス予想は楽観的数値」の例が、数多く出てくると想定されます。

 

一方、予想されるマクロデータ(様々な経済指標)から予想を作る証券会社各社のストラテジストの今期予想業績(いわゆるトップダウン業績予想)は、全社合計で30-40%減益となっています。明らかにアナリストが予想する個別銘柄の業績予想の合計(いわゆるボトムアップ業績予想)とは、相当な乖離があります。トップダウン予想の根拠となっている予想マクロデータの前提は「経済活動へのウィルス影響は4-6月期がピークで、7-9月期には徐々に正常化に向かい、10月以降はほぼ正常化する」というものです。ウィルス影響が数年にも及ぶと主張する専門家(医学者)もいる中で、この前提は悲観的どころか楽観的だといえます。

 

つまりトップダウン業績予想は「許容できる楽観シナリオに基づく数値」であり、ボトムアップ業績予想は「合理的な根拠のない過度に楽観的な数値」です。ではなぜ個別企業の業績予想を行なう専門家であるはずのアナリストが、そのような過度に楽観的な予想を作ってしまうのでしょう?その理由は2つあります。一つ目は「アナリストは日常的に調査対象会社と接触があるから」です。

 

例えば、今日のオムロンの業績発表を受けて、A証券会社の担当アナリストBさんが、オムロンの今期業績を30%減益に変更し、それが原因で明日のオムロンの株価が大幅下落したとします。まず間違いなくオムロンのIR担当CさんからアナリストBさんに電話があり、「会社側が予想を出していないのに、あなたが勝手に大幅減益予想を出したせいで株価が下落した、と弊社の役員が怒っている」と言われます。場合によってはオムロンの役員からA証券会社の役員に、そのような電話があるかもしれません。それが原因で、A証券会社はオムロンの幹事証券からはずされるかもしれません。(注:オムロンはたまたま本日決算発表を行った会社、というだけで、オムロンがそのようなクレーム会社だという意図はまったくありませんので、誤解なきようお願いします。)

 

もう一つの理由が「(多くの)人間は大きな変化を受け入れたがらないから」です。これは心理学では「非対称な洞察の錯覚」として知られる、心理現象の一つです。アナリストにとっては「明らかにウィルス被害は当初考えていたよりはるかに大規模だ。しかし会社が予想を出していない中で、5%増益をいきなり30%減益に変更すると、色々支障が出るかもしれない。とりあえず5%減益くらいにとどめておこう。」という心理です。

 

一方、ストラテジストや彼らにマクロデータを提供するエコノミストは、会社との接触もないし、予想数値も様々な数値データから数学的に算出して作ります。いわば「機械的」に作られるのです。今後、会社側が今期の業績予想を大幅減益で出してきた時に、アナリストは安心して自分の予想も大幅減益に変更する、ということが想定されます。株価はそのような発表を受けて初めて大幅下落するのではなく、そのような兆候を嗅ぎ取って下落していくと思われます。

 

心理学に話題が及んだので、コロナ後の経済活動を心理学的に予想します。(この点を市場が織り込むのはまだ先だと思われますが。)基本的に、(多くの)人間は変化をストレスと捉えます。中心点から外れる事に心地悪さを感じ、中心点に戻ることに心地良さを感じます。しかし外部からの大きな力により、大きな変化を受け入れなければならなくなった場合、中心点そのものが移動します。心理学で「変容」と呼ばれ、経済活動などでは「ニューノーマル」と呼ばれる現象です。

 

現在、ウィルス感染拡大回避のために、多くの人が在宅勤務を行い、食事は自宅で食べています。旅行にも、娯楽施設にも行くことができません。この状態がいつまで続くかわかりませんが、少なくとも今月いっぱいで終了という状況ではないでしょう。このような生活スタイルの大きな変化を受けて、変容が起こる可能性が高いと思われます。人によって行動変容する部分は異なると思いますが、コロナ後になっても、電車などでの移動を減らしたまま、外食回数は減らしたまま、飲み会の回数は減らしたまま、イベントへの参加回数は減らしたまま、など色々考えられますが、社会全体としては経済活動(経済規模)の縮小です。

 

つまり、コロナ前の経済規模が100で、それがコロナ中には50にさせられ、コロナ後になっても70にしか戻らない、というイメージです。現在、市場ではコロナ後には経済規模が元に戻るということが大前提で、どの時期から戻るのかという議論しかなされていませんが、いずれその大前提が違うのでは、という話が市場の外側から多く聞かれる様になるでしょう。それは株式市場にとっては、最後まで「受け入れたくない変化」になると思いますが。