米雇用統計の怪-世界的株バブルは仕上がりに向かう
先週金曜日に5月米雇用統計が発表されましたが、非農業部門雇用者数変化と失業率の事前予想はそれぞれ750万人減(4月は2,054万人減)、19.0%(4月は14.7%)でしたが、発表された数値はそれぞれ251万人増、13.3%と、事前予想を上回るどことか、どちらも雇用の改善を示す驚きの数値でした。これを受けて米国株は大幅上昇、米国長期金利も上昇し、米国では株式市場も債券市場も景気改善を織り込みました。
主要経済統計が事前予想と、ここまで大幅に乖離することは極めて稀です。今回の背景には、毎週発表される失業保険申請者件数の数値と、雇用統計で集計された失業者の数値に整合性が取れていないということがあり、理由はまだ不明ですが、失業保険を需給しているにもかかわらず「失業者」とカウントされていない人が多数存在するということです。なお雇用統計を集計・発表している米労働統計局は今回の雇用統計に関して「データ集計に不備がある可能性がある」と異例の注釈を付しています。これは次回(7月3日)の発表の際に、今回発表された数値が大幅に修正される可能性があることを意味します。
ただ世界的に株式市場は明らかな上昇が続いており、「次回雇用統計発表時に5月数値が大幅に下方修正される可能性がある」ということにはお構いなしの状況です。業績予想は当初のイメージどおりに下方修正が続いており、その中での株価上昇はバリュエーション(PER)の一方的な拡大を意味します。日本株の需給状況を見ても、外人投資家は現物株の売り越しを続けており、日銀によるETF買い入れも5月15日を最後に行なわれていません。短期投資家主導で「上がるから買う。買うから上がる」のまさにバブル相場です。
バブル相場の特徴の一つとして「現状を正当化する理屈」が浮上する、ということがあります。日本の1980年代の時には「トービンのQ(保有資産の含み益を加味したPBR)」、2000年のネットバブルの時には「加入者1人当たりの価値」でした。後になって考えてみれば、理屈でもなんでもない理屈でした。今回は「各国中銀の積極緩和政策による過剰流動性」です。積極緩和策が始められた3月には、供給されるマネーは「企業や個人の延命」に使われ、「株式市場の押し上げ」に使われるとは誰も想定していませんでした。各国で給付金の配布が行なわれ始めている現在でも、給付金が株式市場に流入している事態は想定できません。
バブル相場では、理屈を振りかざしても意味がありません。割高が更に割高になります。バブル相場に乗るかどうかはスタンス次第ですが、少なくとも流れに逆らっても勝ち目はありません。ただ、断言できることは「バブル相場は必ず終わる」ということです。どの水準でいつ終わるのかを事前に予想できる人は誰もいません。しかし必ず「終わり」は来ます。また「おそらく終わった」ことは、相場を客観的に冷静に見ていればわかります。その唯一の判断基準は「値動き」です。
バブル相場が終わる時、何の悪材料もない中、あるいはわずかな悪材料をきっかけに、場中に大幅下落します。今回の「コロナ・バブル」は世界株がシンクロする形で進行していますので、おそらくバブルの終焉の先鞭をつけるのは米国株の可能性が高いでしょう。ただ、日本株がその先鞭をつける可能性も否定はできません。過去のバブル相場とバブル崩壊を振り返ると、上り坂(上昇)の値幅よりも下り坂(下落)の値幅の方が大きくなります。値動きから「おそらくバブルが終わった」と判断される時、高値から少なくとも3-5%は下落していると想定されますが、高値憶えせずにそこを売ることで十分な収益が出ます。
今回の米雇用統計のポジティブ・サプライズとそれによる米国株大幅上昇で、バブル相場はかなり成熟してきた感があります。上記の通り時期を事前に予想することは無理なのですが、「おそらく終わった」という値動きになるのが、今週、来週にも起こってもまったく不思議はないと思います。