ミョウジョウ・アセット・マネジメント株式会社の運営する会員制金融情報サイトです。

2021年12月24日のマーケット・コメント

コストプッシュ・インフレは日本にとっては最悪

 

本日発表された11月の全国消費者物価指数(CPI)は、総合指数が前年比+0.6%、生鮮食品を除くコアCPIが前年比+0.5%、生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPIが前年比-0.6%でした。エネルギー価格(ガソリンや電気料金など)は前年比+15.6%だった一方、携帯電話通信料金は前年比-53.6%でした。なお、携帯電話料金を除くと、CPIは日銀が目標としている+2%程度となります。

 

現在、世界的にインフレが問題になっていますが、その原因は供給制約(需要に対して供給が足りない状況)によるもので、その結果として資源価格が上昇し、原材料価格やエネルギー価格などのコストが上昇することによる、いわゆるコストプッシュ・インフレです。企業のコストを表す指標が生産者物価指数(PPI)で、11月の米国のPPIは前年比+9.6%となっています。日本のPPIに相当する11月の企業物価は、前年比+9.0%と米国と同水準の上昇となっています。ほとんどの資源価格が、米ドル建ての国際価格で決められていることを考えれば、世界的にPPIは「米ドル建ての資源価格の上下+各国通貨の対ドルでの上下」であり、日米でPPIが同水準なのは当然の結果です。

 

問題は、コスト上昇という経済的にマイナスの影響を誰が負担するか、です。負担する主体は3つあります。企業が製品価格の値上げに転嫁して消費者が負担するか、企業が製品価格の値上げをせず企業が負担するか、補助金の給付などにより政府が負担するか、のいずれかです。11月11日付のコメントでもご説明しましたが、この点の状況が日米で大きく異なります。米国の11月のCPIは前年比+6.8%でしたので、米国ではコスト上昇のほとんどが製品価格の値上げに転嫁されているのに対し、日本ではコスト上昇分が自動的に値上げにつながるエネルギー価格を除くと、コスト上昇分のほとんどが企業負担となっています。企業業績の圧迫要因です。

PPIとCPI日本20211224

PPIとCPI米国20211216

日本では製品値上げをすると一気にシェアが落ち、値上げによる増収効果よりも販売数量減少による減収効果が上回り、結果として売上高が減少して値上げをしない場合よりも更に業績悪化するという恐怖感があるため、多くの企業はコスト上昇を値上げに転嫁しないのです。なぜ日本の消費者は値上げに対して拒否感があるのか、その理由は過去30年間に渡り製品価格が上昇する経験がないからですが、それは結果であり原因ではありません。原因は過去30年間「名目所得(給料の金額)が増えていないから」です。

 

名目所得が増えない中、製品価格が値上がりすれば、消費者が取れる行動は「節約」しかありません。節約とは、購入品目を減らす(どうしても必要ではないものを買わなくする)か、購入点数を減らす(どうしても必要だから買うが買う量を減らす)かのどちらかであり、いずれにせよ企業側からすれば売上の減少です。ではなぜ日本では過去30年間給料が増えていないのか、そこが重要なポイントです。

 

バブル崩壊から大手金融機関の相次ぐ破綻があった1990年代はともかく、21世紀に入ってからは日本の企業業績は、世界景気と連動して増減してきました。上場企業の業績は2018年度に過去最高を記録し、2021年度は過去最高を更新する見通しとなっています。それにもかかわらず、21世紀になっても名目所得はまったく増加していません。その理由は、日本では一旦増やしてしまうと減らすことが困難だから、です。

 

米国の場合、給料の減額も指名解雇による人員削減も、会社都合で自由自在に行うことができます。業績が好調な時は給料を増やし、業績が悪い時には給料を減らし、更に人員整理を行なうことが容易にできるため、人件費を変動費扱いに出来ます。しかし日本の場合は、人件費調整はせいぜいボーナス額の増減くらいしか出来ず、基本給の削減はよほどの状況にならなければ受け入れられません。また、指名解雇は法律で禁止されているため、人員整理は割り増し退職金を条件に希望退職者を募集するという方法になり、短期的にはコスト増加要因となります。

 

米国の場合、給料がCPI並みに増加しているため、実質購買力は変化ありませんが、日本の場合、コスト上昇→製品値上げに転嫁できず企業が負担→企業業績悪化→給料はますます増やせなくなる、というまさに悪循環になる構図です。

 

岸田首相をはじめ、日本企業が業績好調にもかかわらず給料を増やさないことを問題視する向きは少なくありませんが、問題の本質に気づいていないのか、あるいは問題の本質に踏み込むと袋叩きになるから議論を避けているのかわかりませんが、いずれにせよ、人件費の大幅な削減が出来ないという原因に踏み込まない限り、給料増加という結果は得られないことは言うまでもないでしょう。