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2021年2月10日のマーケット・コメント

米国長期金利上昇継続の場合に想定されるプロセス

 

米国10年国債利回りは、先週金曜日に1.17%まで上昇してから高止まりが続いています。ここであらためて、金利の要因分解とその変動要因についてご説明し、米国10年国債利回りが、どの段階でどのくらいの水準まで上昇するかを考えます。

 

まず要因分解ですが、米国10年国債利回り(名目金利)は「期待インフレ率」と「実質金利」に分解されます。つまり「名目金利」=「期待インフレ率」+「実質金利」です。実質金利には、インフレ連動国債利回りが使われ「期待インフレ率(BEI率)」=「名目金利」-「インフレ連動国債利回り」となります。

 

それぞれの変動要因ですが、

期待インフレ率:文字通り、市場が将来予想するインフレ水準であり、変動要因としては景気動向と、原油や非鉄金属などの商品価格動向です。

インフレ連動国債利回り:FRBの金融政策の方向性の変化が変動要因です。緩和姿勢が強いほど低下し、引き締め姿勢が強いほど上昇します。

 

現在の米国10年国債利回り1.17%を分解すると、「期待インフレ率2.21%」+「実質金利(インフレ連動国債利回り)-1.04%」となります。米国10年国債利回りの推移を振り返ると、昨年3月に急低下し、昨年8月4日に0.51%まで低下して底を打ち、現在に至るまで緩やかな上昇基調となっています。これを分解して見ると、実質金利は昨年7月以降現在に至るまで、ずっと-1.0%(マイナス1.0%)程度での推移となっています。現在に至るまでFRBの超緩和姿勢に変化がないためです。つまり、昨年8月から現在に至る金利上昇は、すべて期待インフレ率の上昇によるものです。期待インフレ率上昇の背景は、米国景気の回復継続と、米国政府による大型経済対策、原油などの商品価格の上昇継続です。

米国10年国債利回り分解20210210

添付のチャートをご覧いただきますように、過去20年間の期待インフレ率は、リーマンショックとコロナショックの異常時をのぞくと1.5%-2.5%程度での推移となっています。現在、米国議会で議論されている追加経済対策が、共和党が主張する6,000億ドルよりも民主党が主張する1.9兆ドルに近い規模になった場合、期待インフレ率が2.5%程度まで上昇する可能性はあるでしょう。その段階では、まだFRBの緩和縮小を織り込むことはないと思われるため、「期待インフレ率2.5%」+「実質金利-1.0%」で、10年国債利回りの上昇余地は1.50%程度と考えられます。

 

つまり、本格的な金利上昇には「FRBの緩和政策縮小を織り込み始めて、実質金利が上昇」することが必要ということです。2013年5月に当時のバーナンキ議長が債券買い入れ額縮小(テーパリング)に言及して金利が急上昇した、いわゆる「テーパー・タントラム」の教訓があるため、パウエル議長は「テーパリング議論はまだ早い」と言い続けるでしょう。しかし市場は、誰が何を言おうが「いよいよテーパリング議論を始めざるをえない」という状況になれば、実質金利が上昇を始めます。

 

実質金利(インフレ連動国債利回り)は、2013年から2019年までは0%-1%の推移でした。現在の-1.0%が0%に戻るだけで、1%の金利上昇要因になります。そのときの期待インフレ率が2.0%であれば10年国債利回りは2.0%、2.5%であれば2.5%となります。

 

金利上昇のプロセスで想定される米国株式市場の反応ですが、1.2%を超え1.5%に迫る過程では、市場全体としては高値もみ合いか緩やかな下落、バリュー株優位グロース株劣位の展開、1.5%を明確に超えていくようなら、それは債券市場でテーパリングを織り込み始めた証拠なので、米国株式市場は本格的な下落トレンド入り、だと思われます。