米雇用統計は予想比大幅下振れもインフレ期待は根強い
先週金曜日に発表された米雇用統計ですが、非農業部門雇用者変化は事前予想の100万人増に対して26.6万人増にとどまり、失業率は事前予想の5.8%に対して6.1%と、ネガティブ・サプライズと呼べるほどの予想比大幅下振れとなりました。これを受けて米国10年国債利回りは、発表前の1.57%から一時1.46%まで急低下しましたが、引けは1.58%でした。これはヘッドラインは弱いものの詳細を見ると、前月比の平均時給が事前予想の0.0%に対して0.7%増と大きく上ぶれ「労働市場の需給はタイト化している=賃金インフレが起こり始めている」ということが示唆されたことによります。おそらくこの背景は、経済の予想以上のペースでの回復による雇用需要の上昇と、再就職するよりも失業給付金を貰うことを選択する人が予想以上に多いという雇用の供給不足の複合でしょう。実質金利(物価連動国債利回り)は、発表前の-0.89%から一時-0.96%まで低下して引けは-0.93%だったので、期待インフレ率は発表前の2.46%から2.51%に上昇となりました。
期待インフレ率の上昇の背景は、資源価格の幅広い上昇です。その象徴がインフレ先行性が高いとされる銅で、統計のある1986年以来で史上最高値となっています。他にも、鉄鉱石、パラジウム、とうもろこし、木材、大豆が史上最高値水準まで上昇しています。資源価格の上昇は企業にとっては原材料価格の上昇であり、それは経済統計で言えばPPI(生産者物価指数)に反映され、その後に各企業は原材料価格上昇を製品価格値上げに転嫁してCPI(消費者物価指数)に反映されます。(4月12日付のコメント参照)その意味ではCPIよりもPPIに注目です。
ウィルス感染拡大の影響で昨年4-6月期の物価水準が低いため、今年4-6月期のインフレ率は一時的に上ぶれることが予想されており、パウエルFRB議長も繰り返し「目先のインフレ率上昇は一時的な現象」と発言してきました。しかし資源価格が高騰していることも事実で、インフレ率上昇が一時的な現象にとどまる保障はなくなってきています。米国では、通常はPPIの発表が先でCPIの発表は後ですが、今月はなぜか12日にCPIが発表され、13日にPPIが発表されるというスケジュールになっています。14日には小売売り上げと輸出入物価指数の発表もあり、今週は米国インフレ動向を見る上で重要な週となりそうです。
米国株市場は、先週金曜日にNYダウとS&P500は史上最高値更新となりましたが、4月半ば以降S&P500もNASDAQも上値の重い展開となっています。また前回のコメントでご説明したように、業績に対する株価反応にも明らかに変化があり「煮詰まり感」が出てきています。もし期待インフレ率が更に上昇するようであれば、米国株式市場は「景気回復の証」とみなすのではなく「将来のインフレ懸念」と捉えて調整のきっかけになる可能性が高いと感じます。