日銀は低金利を優先し円安進行を犠牲にする姿勢を明確化
米国を始め、世界的に長期金利が上昇傾向となっている中、日本でも長期金利が上昇してきました。日銀はイールドカーブ・コントロール政策(YCC)のもと、10年国債の利回りを「0%±0.25%の範囲にとどめる」としてきており、日銀の対応が注目されていました。昨日、日銀は0.25%での指し値オペ(10年国債を0.25%で無制限に買い入れる指値注文)を2回入れ、更に29日から31日の連続指し値オペを入れました。これは「日銀は10年国債利回りの0.25%以上の水準への上昇を断固容認しない=現行の金融政策を引き締め方向に変更するつもりはない」という強烈なメッセージです。
ご承知のように、米FRBは3月16日FOMCで「FRBは高インフレが沈静化されるまで、全力で利上げを行なう」という姿勢を明確にしています。つまり、日米金利差は拡大が継続することが確実となり、強力な円安ドル高進行材料です。実際に、先週末には122.05円だったドル円は東京市場で123円台後半まで上昇し、更に欧州市場が始まると一気に125.09円まで急上昇しました。さすがに「スピード違反」という判断からか、米国市場では123円台の推移となりましたが、もはや円高ドル安になる材料は何もなく、需給調整一巡後は再度円安ドル高進行が始まるでしょう。
ドル円の上値のフシメですが、2015年6月の高値125.87円を上抜けると、その次は2002年1月の高値135.15円、更にそこを上抜けると1998年8月の高値147.66円となります。更にその上は1990年の高値160.20円となりますが、それら以外にフシメはありません。1985年のプラザ合意でドル円市場の世界が変ったため、プラザ合意以前のチャートは意味を持たないからです。
昨日今日のドル円と日本株の値動きを見る限り、効果は大きくないものの方向性としてはドル円上昇は日本株の押し上げ要因となっているようですが、その持続性は甚だ疑問です。円安進行の主なプラス面は「輸出競争力向上」、マイナス面は「輸入物価の上昇」ですが、かつて輸出産業と呼ばれた企業が海外生産体制を強化してきた結果、輸出競争力向上から得られる恩恵はきわめて小さくなっている一方、資源の大部分を輸入に依存している日本の構造を考えると、輸入物価の上昇による悪影響はほぼすべての企業、すべての消費者に及ぶからです。
これまでご説明している通り、4月後半から5月前半にかけて、3月期決算の企業が2021年度の実績とともに2022年度の業績見通しを発表する際に、ドル建て価格の大幅上昇に円安進行が加わった資源価格上昇が企業業績に与える悪影響を市場は数値として認識し、2022年度予想企業業績の目線が明確に低下すると同時に、「円安進行=企業業績悪化要因=株安要因」という認識が定着していくと想定されます。それでも、日本の財政政策に組み込まれている日銀の金融政策を変えることは出来ず、まさに「足下を見られる」形で円安進行は続くでしょう。