12月FOMC議事録
昨日、12月14日FOMCの議事録が発表されました。ドットチャートが大きく上方に修正された背景に、どのような議論があったのか注目されましたが、2023年のインフレ見通しには特に言及がありませんでした。その代わり、市場が2023年後半にFRBが利下げ転換することを織り込んでいることを意識して「正当な根拠のない金融緩和は、特に委員会の対応に関する世間一般の誤解に基づくものである場合、物価安定を回復する委員会の取り組みを複雑化させる」と、市場の織り込みが間違いであると異例の指摘がありました。
また2023年の米国景気見通しに関しては「2023年の経済成長は鈍化するというのが基本的な見通しであり、リセッション(景気後退)の可能性もありえる」「失業率が上昇し経済成長が鈍化するリスクがあっても、インフレ率を目標の2%に向けて押し下げることを優先する」とされました。以前から指摘しているように、やはりFRBはインフレ沈静化のための金融引き締めを、やり過ぎるまでやる決意であるということでしょう。1970年代後半に、景気悪化に恐れをなしてインフレ沈静化の道半ばで金融緩和に転じ、その後のインフレ加速を招いてしまったバーンズ元FRB議長ではなく、1980年代前半に景気悪化を恐れることなく強烈な金融引き締めを継続したボルカー元FRB議長を志向している、ということが感じられます。
議事録発表を受けても、FFレート先物市場は依然として「2023年半ばからの利下げ転換、2024年の利下げ加速」を織り込んだままとなっています。昨年12月14日FOMC前との比較では、利上げの最高水準の織り込みは若干上方シフトしていますが、利下げ転換の織り込みは変化がありません。おそらく市場参加者のほとんどが「FRB=景気悪化の時には景気浮揚に動く市場の味方」といまだに認識しているためだと思われます。
しかし、その認識には大きな誤解があります。FRBだけではなく中央銀行の唯一最大の責務は物価安定(インフレ制御)であり、景気浮揚ではないのです。通常の場合は、景気とインフレは同一方向に動くため、中央銀行のインフレ制御的行動が景気浮揚と一致します。1980年代半ば以降は、景気後退によるインフレ低下を受けて、中央銀行はインフレ上昇を目的に金融緩和を行い、結果的に景気や株式市場を下支えしてきたので、現在の市場参加者のほとんどが「FRB=景気悪化の時には景気浮揚に動く市場の味方」と思い込んでいても不思議はありません。
ただし、現在の状況は1970年代後半から1980年代前半に起こった、コストプッシュ型の高インフレです。つまりFRBは、高インフレを制御するために、積極的に景気を後退に陥らせて、更に言うと資産デフレ(株、不動産、クレジットの大幅価格下落)を起こすことを企図しているのです。もしかしたら、多くの市場参加者は最後までこのメカニズムを理解できないままかもしれませんが、企業業績が悪化すれば株価は下落する、ということを理解できない市場参加者はいないでしょう。1月後半から始まる10-12月期業績発表と2023年の業績見通しが、市場想定よりも弱い可能性は極めて高く、その状況下でもFRBが引き締めの手を緩めないことがわかれば、さすがに株式市場もFRBの企図する方向(=下落)に向かわざるを得なくなるでしょう。